西暦 二〇〇四年 弥生 二十一日(日)  ◇  旧暦 二〇〇四年 閏如月 一日 友引
LOST WING

失くした翼のその跡にくちづけられる苦痛に
虚空に放つ悲鳴は音にもならず
ただ我と我が喉を引き裂いて嘆きを重ねるだけ
闇に見開いた瞳から
一滴の涙も零れはしないのと同じように

血塗れの背中を這うくちびるの熱さに
耐える事かなわず振り絞る慟哭も
何故にこの蒼褪めて震える唇を割るときは
この身体を
おまえが奏でる楽を鳴らす器へと変貌させる

おまえは失くした翼の具現
まざまざと目前に見せ付けられる喪失の苦い証
それだからおまえはこんなにも愛しく
それだからおまえはこんなにも痛い

寄り添う無慈悲な慰撫の手に引き攣るほどに痛む
未だ癒えぬ生乾きの欠落の痕跡
二度と再び手離すことなど出来ないだろう
羽ばたくことの快楽を忘れさせてはくれない
俺のこの新しい翼を

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西暦 二〇〇四年 弥生 二十日(土)春分の日  ◇  旧暦 二〇〇四年 如月 三十日 先勝 春分
無題

あなたがこの地上に存在してくれたから
今わたしは幸福の上に座っていられる

あなたがくれた言葉を、わたしは忘れない
ただ、ずっと信じ続けていられるほど
子供ではなくなってしまった自分が少し哀しいだけ

ひとごみの中から、いつもわたしを見つけてくれる
あなたが好きだった
愛ともいえず、それは自分勝手な欲望でしかなかったけれど
あなたが好きだった

何故だろう、いつも思い出すのは
凍てつく道で前を歩くコートの後ろ姿と
夏の日の眩暈ばかり

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西暦 二〇〇四年 弥生 七日(日)  ◇  旧暦 二〇〇四年 如月 十七日 赤口
STEP

ひとつ足を前に踏み出すごとに
ほんの少しずつ貴方が遠くなる
振り向いて確かめてみれば
まだ笑ってくれているのかもしれないけれど

見上げる瞳は空の色を映し
浮かべる涙など知らないふりをして
心は高く、高く、もっと高く
ああ 昇っていけるのならいいのに

足元を踊る意地悪なシルフィード
翻る翼はもう持ってはいないけれど
石畳に硬い靴音を響かせて
ひとり 
軽やかに強がりのステップを踏む

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